突破
2006 / 09 / 30 ( Sat )
「君は今希望の大学入学するために必死になっている、
でも気付いているハズだ、そんな勉強方法じゃあ何年かかっても突破なんて出来やしないってことを。
おかしいと思わないかい?
これだけ科学技術が進歩しているのに勉強方法だけはずっと進歩してないということが。
――いやいや、怪しいものじゃない。
実はね、そんな君に新しい勉強道具を購入して欲しいと思って、こうやって君の家まで来たワケなんだ。
・・・うん、最初はみんなそう言うんだよ。『何でオレが』ってね。
でも、元から勉強が出来るような人に渡しても意味がないじゃないか。
大体おかしいと思わないかい?
勉強が出来るのは才能が全てなんだよ。
その才能が無いぐらいで社会の枠からはじき出されるのは酷い話だろ。
言うならば野球選手がサッカーで勝負させられるようなものだ。
少しぐらい野球選手にだってハンデをつけてもいいじゃないか。
君もそう思うかい、だからこの装置を使って欲しいんだよ。
―――睡眠学習、って知ってるよね、随分と昔に流行ったヤツ。
その原理をもっと科学的に出来ないかと開発されたのがコレだ。
このヘッドギヤ型ゴーグルの中には脳波が出る仕組みになっているんだ、勉強が出来る人の脳波がね。
寝る前にこれを被ってスイッチを押す、後はいつものように眠るだけでこの装置の脳波と君の脳波が同調して勝手に睡眠学習をしてくれる、
という感じでね。
うん、値段かい、そうだな・・・これぐらいでどうだろう」
その男が口にした金額、それはオレが今まで貯めてきた貯金とほぼ同じ額だった。
「ま、今すぐとは言いません、二、三日使ってみてから決めてもらって結構ですよ」
そう言い残して男は装置だけを残して去っていった。
その夜、オレは迷うことなくそのヘッドギヤを被った。
翌日オレがすぐに購入したのは書くまでもない。
その効果は数週間もしないうちに現れた。
あっという間にオレの成績は下から数えるよりも上から片手で数えられるぐらいに上昇した。
周りからはどんな勉強法をしているのか何度も聞かれたが、決してホントのことは言わなかった。
言えばみんなの成績が上がってしまうからな。
オレはいつも以上に遊んだ、そして夜はあのヘッドギアを被る。
こんな楽な勉強方法ってあるかい?
でも、一つ困ったことがある。
時折ふっとオレが見知らぬ男に殴られている映像が頭に浮かぶのだ。
それが何度も、何度も。
オレを殴っている男はいつも決まって同じ男だ。
丸顔で小太りの男、忘れたくても忘れられやしない。
それが何週間も続くうち、オレはある思いにとらわれた。
もしかしてこの記憶は、あの睡眠学習装置が原因なんじゃないか、と。
あの装置は勉強を苦に自殺した学生の記憶なんじゃないか・・・、って。
しかしオレはあの装置をやめるワケにはいかなかった。
あと数ヶ月で入学試験なのだ。今手放したら元の勉強の出来ないオレに逆戻りしてしまう。あと数ヶ月の辛抱なんだ、そうさ、数ヶ月ぐらい我慢してやるさ。
そしてある日、駅のホームで待っていたところ、あの映像が襲いかかってきた。
いつものように殴られ、蹴られ、崩れ落ちるオレ。
だが現実に戻ったオレの目の前にはあの記憶の中の男が立っていた。
これは現実か?それともなの幻か?
そんなことを考えているうちに沸々と怒りがこみ上げてきた。
何度も何度も蹴られ、殴られていたあの映像、
現実かどうかなんてどうでもいい。オレはコイツに復讐しなければならない。
いつの間にかオレの記憶は自殺した学生のモノになっていた。
(こいつがオレを苦しめていたんだな!)
オレはそっとその小太りの男の後ろに歩み寄った。
「はい、予想通り彼は殺人を犯しました。
えぇ、ヘッドギヤも回収しましたし。
あぁ、あの記憶はもちろん捏造ですよ、ですからいくら彼が記憶について証言しても証拠はありませんからね。
言い逃れとして処理されるでしょう。
そうです、証拠は残りません。完全犯罪です」
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