逃亡
2007 / 11 / 30 ( Fri )
逃げるにはそれなりの理由がないと様にならない。
そして観客は訳もなく理由を求めたがる。
『何故彼ら夫婦はこのような行動を起こしたのでしょう?』
人の突発的行動に理論的説明を求めること自体が完全な間違いなのに。
晩飯を決めるのに理屈なんているのか?
他人のカラオケの選曲にいちいち理由を求めるのか?
「人は理由もなく殺人を犯す」とは江戸川乱歩だったか。
「アンタ、これからどうするのさ!
こんなに警察に囲まれて、あぁマスコミまで来てる」
「そうだな、もういっそ商売の宣伝でもするか、
でも売れなかったからこんなことやってるんだしなぁ」
「だから売れないって言ったのよ、『生たまごっち』なんて!」
「生命の素晴らしさを肌で感じることの出来る商品じゃないか」
「そんなもん有精卵って言いなさいよ」
「市販の卵を必死で温めようとする人に答えようとだな」
「あぁハイハイそうでした。で、次に出したのが確か水だったわね」
「そうそう、『道頓堀の天然水』だ」
「飲みたくないわよそんな水」
「人間の怖いモノ見たさの心理で売れると踏んだんだが」
「で、中身が緑茶だったのよね、茶葉入りの。
そんなことしてるからあんなに借金が膨れあがったのよ」
「だからこうやって銀行強盗をやっているんだろ」
そう、確かに押し入ることには成功した。
だが素人が金庫を開けられるはずもなく、そうこうしているうちにあっさり包囲されたのだ。
「でもこれからどうするの」
「ふっふっふ、そんなこともあろうかと、さっき電話で鍵師を呼んだ」
「鍵師ですって? こんなところに来るわけないじゃない!」
「どうもー、ロッキーロックシステムの岩木です。
いやぁ、人が多くてここまで来るのが大変でしたよ、全く野次馬って邪魔ですねぇ」
突然目の前から声がした、前を見ると黒っぽい服を着た、やけに背の高い男がそう喋りながら近づいてくる。
「ど、どうやって来たんですか」
「どうってそりゃ玄関から」
ふと見ると外は更に騒がしくなっていた。
『馬鹿野郎』とか『犯人を刺激するな』とか怒声が飛び交っている。
「で、何を開けて欲しいんですか」
「あ、あそこにある金庫です」
俺の後ろには二メートルを越えるぐらいの大きさの分厚い鉄で出来た金庫だった。
「ほう、こりゃ大きいですな。大砲撃っても壊れないぐらいの。
――で、開けるんですかコレ、多分中はたいしたモンは入ってませんよ」
「どうして分かるんですか?」
「分かるんですよ、こんな職業やってるとね。
こんな厳重な金庫の中ってのは大抵が絵画とか株券とか、そんな素人が売りさばきにくいものばかり入ってるんですよ。
外は立派でも中はグダグダってのはよくある話ですから。
それでもいいなら開けますが更に罪は重くなりますよ」
「えっと――」
「いい加減にして。これだけ囲まれたらもう逃げられないじゃない、終わりなのよ私たちは!」
「おぉ主役気取りですか、じゃそんなアナタに主役をプレゼントしましょう。
『ハムレット』か『マクベス』か『リア王』『オセロ』、どれがいいです?」
「それ全部主役が死ぬんじゃ」
「ご名答、そのついでにもう一つ。
丁度ここにロケット花火がありますから、あそこの集団に一発当ててみません?」
彼が指さした先にはマスコミが生中継をしていた。
「これ以上罪を重ねてどうするんです」
「いやね、さっきそこのリポーターに罵られたから、その腹いせに。
女子アナだったらよかったんだけどねぇ」
見るとそのリポーターは遠くから分かるぐらい脂ぎっていた。
「完全に私怨じゃないですか」
「よし、とりあえず挨拶代わりに一発」
「止めてください、というかアナタも捕まりますよ」
「包丁で人を殺したからといって鍛冶屋に責任があるわけじゃない、だから大丈夫です」
「『ラスコーリニコフの斧』って知ってます?」
「青少年にエロ本を渡すなってことでしょ、だから武器は渡してないじゃないですか」
「・・・アナタには常識はないんですか」
「服着て会話してりゃそれで十分ですよ。あぁそういえばこの前医者に言われましたね、
『世間の常識とか頭のネジとかを母親の腹の中に置いてきただろ』ってね。
道理で頭が軽いハズだと思ったら、叩いても文明開化の音はしませんよ」
「叩きませんよ、って言うかホント何しに来たんですか!」
「そりゃもう鍵を開けにね、で、開けるんですか。
手っ取り早くこの建物ごと破壊すりゃ簡単に中身を取り出せますが」
「アナタ鍵師でしょうが」
「まぁ一応はね、でも支払いをして頂かないとねぇ、こっちもボランティアじゃありませんし」
「ねぇアナタ、もう自首しましょうよ、今なら罪も軽いハズよ」
「――そうだな、これ以上罪を重くする必要なんてないしな」
「そうですか、じゃあとりあえず両手を挙げて外へ出れば大丈夫ですよ」
「こ、こうですか」
「そうそう、そのまま『商売繁盛で笹持って来い』と叫べば」
「何の掛け声ですか、大体そんなことしても」
「商売繁盛で笹持って!」
「やっても意味無いから」
「そうでもなさそうですよ、ほら、警察が動揺してます。
これで逮捕された後に精神鑑定を受けられるじゃないですか」
「イヤがらせですか」
「えぇ、こんなところまで呼んだ腹いせに」
『えー、たった今現場で動きがありました。犯人たちが両手を挙げて出てきました。
どうやら投降するようです。繰り返します、犯人たちは――っ!』
突如として向こうの方で爆発音が聞こえた。
ふと振り返ると俺の背後でロケット花火をアナウンサーにぶち当てて爆笑している鍵師がいた。
あとで絶対一発ぶん殴ってやる。俺は両手を挙げながらそう心に誓っていた。
そして観客は訳もなく理由を求めたがる。
『何故彼ら夫婦はこのような行動を起こしたのでしょう?』
人の突発的行動に理論的説明を求めること自体が完全な間違いなのに。
晩飯を決めるのに理屈なんているのか?
他人のカラオケの選曲にいちいち理由を求めるのか?
「人は理由もなく殺人を犯す」とは江戸川乱歩だったか。
「アンタ、これからどうするのさ!
こんなに警察に囲まれて、あぁマスコミまで来てる」
「そうだな、もういっそ商売の宣伝でもするか、
でも売れなかったからこんなことやってるんだしなぁ」
「だから売れないって言ったのよ、『生たまごっち』なんて!」
「生命の素晴らしさを肌で感じることの出来る商品じゃないか」
「そんなもん有精卵って言いなさいよ」
「市販の卵を必死で温めようとする人に答えようとだな」
「あぁハイハイそうでした。で、次に出したのが確か水だったわね」
「そうそう、『道頓堀の天然水』だ」
「飲みたくないわよそんな水」
「人間の怖いモノ見たさの心理で売れると踏んだんだが」
「で、中身が緑茶だったのよね、茶葉入りの。
そんなことしてるからあんなに借金が膨れあがったのよ」
「だからこうやって銀行強盗をやっているんだろ」
そう、確かに押し入ることには成功した。
だが素人が金庫を開けられるはずもなく、そうこうしているうちにあっさり包囲されたのだ。
「でもこれからどうするの」
「ふっふっふ、そんなこともあろうかと、さっき電話で鍵師を呼んだ」
「鍵師ですって? こんなところに来るわけないじゃない!」
「どうもー、ロッキーロックシステムの岩木です。
いやぁ、人が多くてここまで来るのが大変でしたよ、全く野次馬って邪魔ですねぇ」
突然目の前から声がした、前を見ると黒っぽい服を着た、やけに背の高い男がそう喋りながら近づいてくる。
「ど、どうやって来たんですか」
「どうってそりゃ玄関から」
ふと見ると外は更に騒がしくなっていた。
『馬鹿野郎』とか『犯人を刺激するな』とか怒声が飛び交っている。
「で、何を開けて欲しいんですか」
「あ、あそこにある金庫です」
俺の後ろには二メートルを越えるぐらいの大きさの分厚い鉄で出来た金庫だった。
「ほう、こりゃ大きいですな。大砲撃っても壊れないぐらいの。
――で、開けるんですかコレ、多分中はたいしたモンは入ってませんよ」
「どうして分かるんですか?」
「分かるんですよ、こんな職業やってるとね。
こんな厳重な金庫の中ってのは大抵が絵画とか株券とか、そんな素人が売りさばきにくいものばかり入ってるんですよ。
外は立派でも中はグダグダってのはよくある話ですから。
それでもいいなら開けますが更に罪は重くなりますよ」
「えっと――」
「いい加減にして。これだけ囲まれたらもう逃げられないじゃない、終わりなのよ私たちは!」
「おぉ主役気取りですか、じゃそんなアナタに主役をプレゼントしましょう。
『ハムレット』か『マクベス』か『リア王』『オセロ』、どれがいいです?」
「それ全部主役が死ぬんじゃ」
「ご名答、そのついでにもう一つ。
丁度ここにロケット花火がありますから、あそこの集団に一発当ててみません?」
彼が指さした先にはマスコミが生中継をしていた。
「これ以上罪を重ねてどうするんです」
「いやね、さっきそこのリポーターに罵られたから、その腹いせに。
女子アナだったらよかったんだけどねぇ」
見るとそのリポーターは遠くから分かるぐらい脂ぎっていた。
「完全に私怨じゃないですか」
「よし、とりあえず挨拶代わりに一発」
「止めてください、というかアナタも捕まりますよ」
「包丁で人を殺したからといって鍛冶屋に責任があるわけじゃない、だから大丈夫です」
「『ラスコーリニコフの斧』って知ってます?」
「青少年にエロ本を渡すなってことでしょ、だから武器は渡してないじゃないですか」
「・・・アナタには常識はないんですか」
「服着て会話してりゃそれで十分ですよ。あぁそういえばこの前医者に言われましたね、
『世間の常識とか頭のネジとかを母親の腹の中に置いてきただろ』ってね。
道理で頭が軽いハズだと思ったら、叩いても文明開化の音はしませんよ」
「叩きませんよ、って言うかホント何しに来たんですか!」
「そりゃもう鍵を開けにね、で、開けるんですか。
手っ取り早くこの建物ごと破壊すりゃ簡単に中身を取り出せますが」
「アナタ鍵師でしょうが」
「まぁ一応はね、でも支払いをして頂かないとねぇ、こっちもボランティアじゃありませんし」
「ねぇアナタ、もう自首しましょうよ、今なら罪も軽いハズよ」
「――そうだな、これ以上罪を重くする必要なんてないしな」
「そうですか、じゃあとりあえず両手を挙げて外へ出れば大丈夫ですよ」
「こ、こうですか」
「そうそう、そのまま『商売繁盛で笹持って来い』と叫べば」
「何の掛け声ですか、大体そんなことしても」
「商売繁盛で笹持って!」
「やっても意味無いから」
「そうでもなさそうですよ、ほら、警察が動揺してます。
これで逮捕された後に精神鑑定を受けられるじゃないですか」
「イヤがらせですか」
「えぇ、こんなところまで呼んだ腹いせに」
『えー、たった今現場で動きがありました。犯人たちが両手を挙げて出てきました。
どうやら投降するようです。繰り返します、犯人たちは――っ!』
突如として向こうの方で爆発音が聞こえた。
ふと振り返ると俺の背後でロケット花火をアナウンサーにぶち当てて爆笑している鍵師がいた。
あとで絶対一発ぶん殴ってやる。俺は両手を挙げながらそう心に誓っていた。
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