夏色の嘘

 夏が暑いのは冬が寒いのと同義である、
そう考えてもやっぱり暑いものは暑いわけで、いくら今が夜中だとしてもそれは気休め程度にしか感じられず、夏が暑いのは必然なんだと必死に言い聞かせてみてもいざ暑くなってみると愕然とするやら憤然とするやらもうとにかく憮然としてしようがない。
それが自然の摂理だなんて言われなくても分かってはいるが、こんな暑さじゃ太陽を打ち落とす気にもなれやしない。

「心頭滅却すれば火もまた涼し」というのは至極簡単な話だと思うが、知ってりゃ大丈夫かどうかはまた別の話で、実際に行うには平常心と同等の根性が必要であり、生憎そんな便利なものを持って生まれてなどいないオレは滅却することもなくただ蚊に襲撃されているという悲惨な状態である。

それにこの言葉を残した人物は滅却したまま焼け死んでいるのであまり信用出来るもんじゃないし。
人を信じれば穴二つ、自分の墓穴は自分で掘れってことか。

「おい、さっさと掘れよ」
 などとぐるぐる考えていたら怒られてしまった。
「ホントにこの辺りなんだろうな」
「そのハズだよ、だってここにカツラの木があるし」
「カツラ!」
「誰もオマエの事なんて言ってないから反応すんな」
 と、騒がしいオレたち三人が今いるのは母校である中学の裏手にある裏山である、あまり人も入らず忘れ去られた感があるが、ここには卒業前にオレたちが埋めたタイムカプセルがある。

 事の流れを説明すると、同窓会で再会したのが4時間前、
タイムカプセルの話題になったのが3時間前、
で、掘り出しに出かけたのが1時間前、
そして今に至る、と。
そう考えると無駄な行動力だなと思う。昔と何も変わっちゃいない。

「ダメだ、暗いし記憶無いし見つかんねぇよ」
「大丈夫、こんなこともあろうかと、金属探知機を持ってきた」
「何探す気だ」
「あ、オレはダウジングセットを」
「所持してるオマエが分からねぇよ」
 などと騒ぐこと数分、結局各々が勝手に探し始める。そのまま数十分が過ぎた後、
「これだけ探しても見つからないなんて、もしかして
『環境にやさしい! 土に還るプラスチック素材使用』
とかじゃないだろうな」
「そんな不親切な素材なんか使ってたまるか」
 などという愚痴も飛び交い始め、急速にやる気が削がれていく。そんな状態。

「なぁ、死体って見つけたらどうしたらいいんだ?」

 唐突に聞かれた。
フリーズ、シャットダウンが出来ません。

「そりゃオマエ、警察に連絡してだな・・・」
「・・・・・・」
「・・・見つけたのか?」
 彼はそれには答えずただ地面を向いて立ちつくすだけだった。何だか急に寒くなってきた。

「おぉい! こっちも見つけたぞ」
 そんな状況とは無縁のダウジング男が横で声を張り上げる。
「ほら、タイムカプセル」
「それどころじゃねぇよ、死体見つけたんだからさ」
「死体?」
「そう、白骨死体だよ」
 怪訝そうな顔を見せた刹那、すぐに表情が変わった。
「あぁ、それか、それには心当たりがある」
「心当たりって、この死体にか?」
「まさかお前、殺したのか!」
「分かったからちょっと待ってろよ、確かこの辺に・・・、おぉ、あったあった、ほらコレ」

 『タイムカプセルの中身 目録』

「あ、そういえばこんなの書いたな」
「そ、これのココ、見てみな」

 オレたち二人はそこに書かれていた内容を見て納得した。





中に入れたモノ

・野球カード
・鈴木選手のサイン入りボール
・通知票
・10年後の自分へ
・あの日の思い出
  ・
  ・
  ・
  ・
・理科室の人体模型(入らないので横に埋める)

23:03 | 短編小説 | comments (0) | trackbacks (0) | page top↑

名前、変えます

 名前を変えないと地獄に堕ちる、さる高名な占い師に言われて名前を変えたのはいいものの、それ以来仕事の依頼が目に見えて減っていった。

「あぁ、もういいよ君、次の番組改編で他のタレントを使うから」
「え、あっ・・・」

 一度落ちたタレントはもう使われない、商品として利用価値の無くなったタレントは消えるかスキャンダルにまみれるしか道はない。
「全てのタレントは消耗品である」とは誰の言葉だったか。まぁいい、とにかく私は使い切られた、それだけの話なのに今でも引退せずにだらだらとこの業界にいるのは居心地がいいからだろうか、それとも過去の栄光を取り戻そうと必死なだけなのだろうか。
それを知る勇気がある程私は若くもないし、また枯れてもいないのだ。


「ねぇ、あそこにいるのってホラ、誰だっけ?」
 街を歩けばこんな声が聞こえるのは私の幻聴なのだろうか?

「さぁ、誰だっけ?」
「ホラ、いたじゃない、昔テレビに出てた。最近見ないけどさぁ」
 人の噂も七十五日、今の時代は何でも早く、全ての物事は数週間で忘れ去られるらしい、そうは理解していても実際にやられるとショックは大きい。
まるで時代に取り残された気分になる。まぁ実際取り残されてるんだけども。

「確か名前を変えたハズだよね」
「あぁ、そうそう、あれって失敗だったよね」
 だから聞こえてるんだって。

 全く、もう忘れるならきれいさっぱり忘れて欲しいものだ。中途半端に覚えているから生活が非常にやりにくいことこの上ない。

「ねぇ、あそこの人、どこかで見たことない?」
「そうそう、去年の12月頃に名前を変えた人だろ」
 オマエら分かってるだろ。


 名前、名前、名前、皆が皆、私を記号で呼ぶ。
もう名付けられるのはうんざりだ。

 ―――でももし、もしも私が死んだらもう名前で呼ばれることはなくなるのだろうか。

 いや、そんなことはないな。記憶から消えても記録には残るし。死んだら新聞記事になるよな。これで有名に・・・いやいや、死んでどうすんだ。意味ないだろ。

 かといって、今から名前を変えるのもなぁ。イメージ悪くなるし。
あ、そうだ、記憶喪失になって名前を変えるというのは・・・ダメだ、先にやった人がいる。同じ手は通用しない。

 簡単に、しかも無理なく名前を変える方法なんて・・・そんな都合のいい話なんてあるのか?

そんなことをとめどなく考えながら歩く。

「あっ! 危ないぞ!」

 その声が聞こえた時にはもう手遅れだった。目の前にはうなりを上げたトラック、ひきつった運転手の顔―――。




「奥様、今回は誠にご愁傷様でした」
「えぇ、でも、あの人は亡くなる前、自分の名前について悩んでいたんです。
ですから、『風流院真現居士』という戒名を頂いて、あの人も喜んでいると思います―――」

23:06 | 短編小説 | comments (0) | trackbacks (0) | page top↑

さらば愛しき受診料

 受信料、と言っても所詮それは卑小な人間が考え出した情報と相当の金を要求するだけの話であって、
それほど過敏に反応するのも過分に過ぎる話ではあるが、しかしそれでも反応してしまうのが人の常というもの。
無論この家族も例外ではない。

「ちわー受信料を頂きに参りましたー」
「受信料だって」
「香辛料だってさ」
「父さん、カレーが美味しいそうです」
「はぁ?」
 といつものように騒がしい一家。今日は少し様子が違うようだ。

「受信料? そんなもの払うのか?」
「えぇ、一応規則ですから」
「規則だって」
「千歳だって」
「『松鶴家千とせ』と『いとうせいこう』は似ているそうです」
「何の話だ」
「あのー、受信料を払って欲しいんですが・・・」
  おずおずと切り出す集金の男。
「さっさと払えってさ」
「残らず出せって」
「父さん追い剥ぎです」
「お前ら伝言ゲーム下手だろ」
「あの、払って頂けるのでしょうか」
「えーっと、おいくらですか?」
「イクラですか?」
「タラちゃんですか?」
「アナゴさん!」

 ・・・・・・!

「・・・で、おいくらですか?」
「あの、子供達は・・・」
「あぁ全く、こんなところでうずくまっていたら邪魔だぞ、・・・で、おいくらですか?」
「あ、え、えぇっと。では、5000円になります」
「5000円だって」
「ご声援だって」
「え、立候補するの?」
「そうか、もう一度殴られたいか」
「落ち着いてください」
「オチをつけてください」
「土地も買ってください」
「加工貿易でもするか?全く・・・で、おいくらですか」
「5000円です」
「え、甲子園?」
「広辞苑だって」
「もうしません」
「いい加減にしろ!この前もそうだ、あのときだって」
「あのー」
「部外者は黙ってろ!」
「は、はい・・・!」

 ――お決まりの回想シーンの為省略――

「――だろ、分かったか。そうか、ならいい。ところでおいくらですか」
「ですから5000円ですって」
「湖西線ですって」
「琵琶湖へ行こう」
「そのまま帰ってくるな! いやぁ、スイマセンねぇ出来の悪い息子で、そうそう、おいくらでしたかね」
「だから5000円です」
「蘇生編?」
「ねぇ弟切草買ってー」
「かまいたちの夜はもうやったからさー」
「街で我慢しなさい。まぁそれはそれとして、おいくらですか?」

「・・・もうヤダこの家族」
23:18 | 短編小説 | comments (2) | trackbacks (0) | page top↑

I'm Not Crazy

「次の方、どうぞ」
 何度聞いたか分からないそのセリフを今日もまた聞く。

 希望に燃えていた時期もあった。だが患者と接していくうちに、人間として重要な部分が削り落とされていく気がした。まるで自分の正常な部分を削って患者を治しているようだ。医者で発狂した人々を何人も間近に見てきたせいだろうか、朱に交われば赤くなる、門前の小僧の何とやら、門前市をなす、は違うな。那須与一は弓の達人だし、太鼓の達人、最近やってないな。

 そんなことを考えているうちに一人の青年が入ってきた、辺りを見渡しながらおどおどしている。限りない挙動不審、不審者、放火魔、犯人は現場に戻る。逮捕だルパン。

「私はおかしくない、おかしくないんです、先生、いつもじゃないから」
「はい、大丈夫ですよ、落ち着いてください、まずは深呼吸をしましょうか」
 深呼吸、そういやさっきタバコを吸った患者がいたから空気が汚い。全く、院内は禁煙だってのに。

「イヤだ、こんな世界はもうイヤだ、あの世界に帰りたい」
 あの世界、あの世界とは何だ、そっちの世界か、そうなのか、だったら早く戻ってこい。
「分かりましたから一度落ち着いてください、ね」
 ホント、落ち着いてもらわないと話が進まないんだから。

「私には帰るべき場所があるんです、でも帰ることが出来ないんです」
 私にだって帰るべき場所はある、でも帰れるかどうか分からない。残業するかどうかは君にかかっているのだよ。だから落ち着いて、ね。
「まただ、またヤツが来る・・・」
 これは残業ペースだな、仕方ない。覚悟を決めるか。


 そんなこんなで今日一日の仕事が終わり、家に帰った時にはもう日付が変わっていた。
電気を付け、エアコンのスイッチを入れる、そしてそのままコンビニで買った30円引きの弁当を電子レンジに入れ、その間にパソコンの電源も入れる。私の感情のスイッチは切られているが。


いやぁ、今日は大変でした。
ちょっと仕事が溜まってってね。そうそう、仕事と言えば・・・・・・。

 こうやって一人で黙々と誰とも話さずにコンビニの弁当を食べながらパソコンの前でキーボードを打つ。私は病んでいるのだろうか。いや、そんなはずはない。これはほとんどの人々がやっていることだ。つまりはこれが進歩だ、進化なのだ。コミュニケーション下手でも話下手でも大丈夫な世界、まさに理想じゃないか。そうなると私の仕事って何なんだろう。まぁいいか。
そう言い聞かせながら、今日も一人でキーボードを打つ。

「私はおかしくない、おかしくないんです」

 ふと頭をよぎったのは、今朝の青年のあの言葉だった。
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居候に大豆で攻撃 全国で

 昨夜未明、全国各地の家庭で、居候に対し大豆を投げつけるという事件が発生し、居候の方たちの必死の抵抗にも関わらず、最終的にはほぼ全ての家庭から居候達が追い出されました。

 大豆で居候を追い出した鈴木太郎さん(57)は「彼らは毎年年末に東北地方で包丁を持って他人の民家に押し入って大暴れしており、これはその復讐である」と話している。

これを受けて、各地の居候たちから「何も悪いことなんてしていない」「私たちの人権も少しは考えて欲しい」「どうして政府は何も対策を打たないのか」など、強い反発の声が上がっています。

これを受け、日本鬼退協会会長の田中次郎さん(72)は「彼らは鬼だ、退治するのは当然」などと発言しており、以前両者の溝は深いままである。

 なお、東京都にある稲荷鬼王神社が彼らの受け入れを表明しており、この事件はこれでひとまずの終着を迎えることになりそうだ。
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